2000年9月
大学一回生の頃、千本一条の先輩の下宿に泊まった朝、烏丸通りまで東に行こうとしたのが反対に西に行ってしまい大将軍の椿湯の前で「大将軍っていえばなんか立命館っぽいな、こら間違ってる」と気付いたことがある。大学生的ななわばり意識だ。今回椿湯に入りに行って、当時レトロな外観の椿湯を眺めて、「今入っておかないと次見たときは潰れてるだろうな」と根拠のない心配をしたことが思い出された。一介の18歳が思っていたよりは銭湯はしぶといものである。大将軍の地名は西大路一条西にある大将軍八神社に由来するがそんなに大きい神社でもない。西陣の織物業者が軒を並べる町である。
椿湯はその西大路一条の角にある「五色の八重散椿」で有名な椿寺からとった屋号ではないかとふと思った。忠臣蔵で有名な天野屋利兵衛の墓がある。しかし、大将軍、名所旧跡の町というよりは学校の町という印象である。椿湯の周りには、北野中学・大将軍小学・府立医科大花園学舎・山城高校・京都工芸繊維大寮がひかえており、府立体育館も徒歩一分のところ。
さて本題の椿湯であるが、珍しく銅板唐破風造りの立派な外観。玄関にはたばこの自動販売機がある。銭湯にはありそうでなかなかない自動販売機。さて靴を脱いで番台への引き戸を開けようとすると勝手に開いた。木製の古ぼけた戸だったのでまさか自動ドアだとは気付かない。ビックリすること請け合い。脱衣場を眺めてしばし、大相撲の力士の手形やサインのコレクションに感心する。脱衣場上部にずらっと新旧の力士の手形が並んでいる。「おぉ、双羽黒だ、こっちは式守伊之助が『光』って書いてある、なんでだ?」と楽しむ。
なぜかロッカーの隣にアイスクリームの冷凍庫があって無性に食べたくなる。湯上がりはアイスを食べて道路壁に面したくつろぎスペースでスポーツ新聞を読むのが正当な楽しみ方。浴室は正面奥の壁に水槽が埋め込んであり鯉が泳いでる。でかい鯉である。本当にそんなにでかいのか、水槽が少し丸くなっているのでレンズ効果があるのかとしばし観察しながら酵素風呂にはいるのが至福の時。ネオン・水槽・紫色の酵素風呂とカラフルでにぎやかな銭湯である。西大路隔てた東にある源湯と風情で良い勝負している。二軒ともいつまでも健在でいて欲しい。
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