能の見方

京都は古典芸能が盛んなのか?

いきなりですが、京都って得ですね。
大阪はあんなにがんばって東京に対抗心燃やしても、東京からは眼中なし、という風体で見られるのに、京都ったらあきらかに落ち目なのに超然としている。
それもこれも平安建都1200年の重みっちゅう奴ですか?
1970年代に「アンノン族」っていうファッションムーブメントがあり、若い女の子の中で国内旅行が流行、全国の観光地たるや若い女性で一杯だったが、その中でも京都は別格の憧れの地で女の子が殺到し、実際、京都の学生というだけでモテタ、という話は一部の情報筋から聞いたことがある。
京都には人を惹きつける何かがある・・・、らしい。
テレビの世界でも、サスペンスで「京都能楽家元殺人事件」なんてタイトルつけると視聴率いいそうだ。
実際いろんな伝統的な流派がある中で、大部分は東京に本拠があり、京都に家元がいるなんて、だいたい茶か花ぐらいだろう。
しかし京都では、竹やぶで能面つけた犯人による殺人や能面裏の口がつく部分に毒薬塗ったりする殺人の類が後を絶たない(サスペンス小説での話ね)。
そんな誤解(確信犯か?)の上に成立っている京都と能楽についての一考察。

2000/05/13
京都の能楽を数字から見てみたいと思う。
公演数などを調べるには『芸能白書』という便利なものがあり、ここでは1999年度版を参考にしてみよう。
『芸能白書1999』では1997年度の公演データを紹介しているが、能・狂言の公演回数を主要都市別に比較すると、以下の通り。
なお、能楽密度とは私が考えたのだが、公演回数÷人口(単位10万人)、つまり人口10万人あたりの一年間の能楽公演回数である。
人口数は総務庁統計局の『日本の統計2000年版』を使用。
主要都道府県の能楽公演数比較
都道府県名 東京 埼玉 千葉 神奈川 石川 愛知 京都 大阪 兵庫 福岡 全国
公演回数 565 19 16 75 49 85 172 140 65 41 1524
能楽密度 4.78 0.28 0.27 0.89 4.14 1.22 6.53 1.59 1.19 0.82 1.20
能の5流派のうち、4流派の家元が在住する東京都に公演が集中しているが、宝生流が盛んな石川県、中世以来の能楽文化が息づく関西地方が、人口のわりに公演回数が多いことが特徴的である。能楽公演において関東地方は東京一極集中型で、関西地方は文化分散型であるといえようか。
なおどの都道府県においても公演が行われており、愛好者の広がりとともに、能楽公演の機動力の良さ、つまり少人数で公演できること、が分かる。

ちなみに、歌舞伎の場合は、

主要都道府県の歌舞伎公演数比較
都道府県名 東京 埼玉 千葉 神奈川 石川 愛知 京都 大阪 兵庫 福岡 全国
公演回数 1124 10 8 26 6 158 157 370 27 33 2272
歌舞伎密度 9.50 0.15 0.14 0.31 0.51 2.27 5.96 4.20 0.49 0.66 1.80
で、大劇場が多くありほとんどの役者が在住している東京への一極集中であり、愛知は御園座、京都は南座、大阪は中座(※1)に松竹により公演が振り分けられているに過ぎない。福岡は1999年に博多座がオープンしたので今後に期待が持てる。
特筆すべきは、金毘羅歌舞伎が毎年行われる香川県が、年52回と人口の割りにずば抜けて公演回数が多いことだ(歌舞伎密度は5.05)、がしかし、その観客がほとんど観光客で占められているのが残念である。
※1 −1998年以降は松竹座に中心が移り、歌舞伎公演は増加している。
     なお残念ながら中座は1999年10月をもって閉場

また、文楽は、
主要都道府県の文楽公演数比較
都道府県名 東京 埼玉 千葉 神奈川 石川 愛知 京都 大阪 兵庫 福岡 全国
公演回数 160 0 7 5 0 8 6 243 7 5 487
文楽密度 1.35 0 0.12 0.06 0 0.11 0.23 2.76 0.13 0.10 0.39
で、人形浄瑠璃が大阪の文楽座を中心に興行されていたことから「文楽」の芸能名称が付いたというエピソードからわかるように、大阪の芸能という性格が強い。
現在、文楽の本公演を行っている劇場は大阪の国立文楽劇場、東京の国立劇場の二つしかないのでその他の公演はすべて巡業公演である。
能楽・歌舞伎に比べ、演技者の裾野が狭いので、将來が心配である。

では、京都は古典芸能が盛んなのか?について考えてみよう。

能楽は全国一の能楽密度を誇る。
大阪・兵庫を加えた関西圏と千葉・埼玉・神奈川を加えた東京圏を比べてみても遜色がない。この現象は他の芸能には見られず(文楽・漫才除く)、京都をはじめ関西における能楽の定着度が高いことが分かる。
京都は能楽が盛んかといえば、盛んである、といえるだろう。

次に歌舞伎であるが、松竹座会場以来大阪での歌舞伎公演が増えているとはいえ、東京中心志向は長いスパンで見ると依然進んでいる。
上方歌舞伎・関西歌舞伎の復興が叫ばれるが、いかんせん関西在住の役者が少なすぎる。中村雁治郎、片岡仁左衛門が戻ってきてくれればまた変わるだろうが・・。
京都に関していえば、年中行事としての顔見世、歌舞伎鑑賞教室、その他一公演、のみなので、「京都の歌舞伎」を云々いう状況ではない。近世後期から、京都劇壇は大阪劇壇の傀儡らしいから、大阪が盛んにならないとどうしようもない。

最後に文楽。これはあきらかに大劇場公演としては大阪の芸能である。
三大古典芸能なんていう括りで扱ってしまった為、国が保護せざるを得ないので、本場の大阪と、首都の東京の国立劇場で公演普及活動を行っている。
地方には農村の人形浄瑠璃が残っており、能勢、淡路、など日本各地に人形浄瑠璃資料館が建設されているが、芸能としての裾野があまりにも狭い。
能楽は謡仕舞・狂言、歌舞伎が舞踊・邦楽という風にお稽古事として観客を身内に取り囲んでいるが、義太夫・太棹・人形遣いをお稽古事としてやる人は少ないのが現状。
最近若い役者が歌舞伎でも狂言でも人気であるが、人形浄瑠璃はあまり顔が見えないからなあ。楽しいのに・・。
忘れていましたが、京都では年に6回公演。しかも昼夜公演なので実質3日公演を歌舞伎、新派、歌手公演の興行が入ってない夏場に南座でやる程度。
<参考文献>
芸能文化情報センター『芸能白書1999 数字に見る日本の芸能』1999 芸団協出版部
総務庁統計局『日本の統計2000年版』